働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

株式会社丸井グループ(東京都中野区)

  • 事業者の方
  • 部下を持つ方
  • 支援する方

読了時間の目安:

9

株式会社丸井グループ
(東京都中野区)

日比野さん、小口さん、関口さん 丸井グループは1931年(昭和6年)創業。小売事業、フィンテック事業をおこなうグループ会社の経営計画・管理などを行っている。
丸井グループの社員数は4,855名(グループ合計/2021年3月末現在)。
今回は、ウェルビーイング推進部の小口まほこさん(産業医)、日比野浩之さん(産業医)、チーフリーダーの関口明央さんからお話を伺った。

“マイナスをゼロにする”(病気の人を病気でない状態にするなど)だけでなく、“プラスをつくる”(病気ではない方がさらにイキイキできるようにするなど)ことにも力を入れ、健康保険組合と連携しながら取り組みを進めている

まず、活動のベースにある考え方と、健康保険組合との連携について、お話を伺った。

小口さん
「当グループのミッションは、『すべての人が“しあわせ”を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創る』です。“すべての人”とは、社員やお客様はもちろん、地域社会や将来世代など、あらゆるステークホルダーを含んでおり、我々の活動もウェルビーイングの視点を通じてこのミッションを実現することをめざしています。」

「当グループは創業当時から社員を家族のように考え、社員の健康に力を入れてきたヘルスケアの基盤があります。そこで“病気にならないこと(基盤)”だけではなく、“今よりもっと活力高くしあわせになること(活力)”も重要であると考え、“活力×基盤”を軸に進めてきました。一般的な健康経営の活動は、病気の人を病気でない状態にするなど、マイナスをゼロにするということが中心だと思いますが、当グループはすべての人がイキイキ働くことができるようにすることにも取り組んでいるのが特徴です。(【図1】参照)」

関口さん
「“基盤のヘルスケア”は健康保険組合、“活力のウェルネス”はウェルビーイング推進部が中心となって、それぞれ取り組みを進めていますが、縦割りの分断された組織ではなく、それぞれの目的に合わせて、互いに協力する体制ができています。例えば女性の健康課題についての取り組みは、健康保険組合は、乳がん検診や子宮頸がんの検診率向上の取り組みを行う一方、我々ウェルビーイング推進部は、女性特有の課題が原因でキャリアや活躍をあきらめなくてもいいように女性自身のリテラシーを高めたり、男性管理職の理解も進むようセミナーを開催したり、と女性活躍の組織文化の醸成に向けた取組みを行っており、健保と会社がお互いに連携することで相乗効果が生まれるよう、目的に合わせて協力しながら進めています。」


【図1】丸井グループのウェルビーイング経営の考え方

“攻めのストレスチェック”と位置付け、ストレスチェックの結果を積極的に活用するため、毎年取り組み内容を見直し改善を続けている

次に、ストレスチェックと職場環境改善の取り組みについて、お話を伺った。

小口さん
「ストレスチェックの活用についても、個々のストレス度を改善することはもちろん、組織のワーク・エンゲイジメントの数字を上げていくことにも注力しています。これを私たちは“攻めのストレスチェック”と呼んでいます。」

「2016年にストレスチェックを開始してから、毎年工夫を重ねています。スタート当初から、社員数10名以上の部門、約200か所について、すべて集団分析結果を個別に各社の社長や部門長にフィードバックするということを続けています。結果の読み方や部門ごとの課題の詳細をお伝えすると同時に、他部門の取り組みで効果が出ている事例を周知することで、全体の活力やしあわせの向上につなげています」

「2017年からは集団分析結果にもとづき、ありたい職場に近づくための“アクション”を、各部門が主体的に考えて実施しています。2018年には一部の部署でアクション検証のための2回目のストレスチェックを半年後に実施し、効果を検証するようになりました。2回目のストレスチェックを実施した約8割の部門で結果が改善しています。」

「2019年からは、“アクションプランの見直しのための対話”を始めました。ストレス度とワーク・エンゲイジメントの偏差値が全国平均を下回る部門のアクションプランに関して対話を行い、アクションがより具体的になるようサポートしています。」

関口さん
「当グループのストレスチェックの受検率は約98%と毎年ほぼ全社員が回答しています。もともと社員一人ひとりの健康に対する意識が高いことに加えて、各事業所に“健康管理委員”という役割の管理職がおり、その人たちが中心に受検の声かけを行うことで高い水準が維持できています。多くの社員が回答する貴重な機会ですので、ストレスチェックの項目は、新職業性ストレス簡易調査票の80項目に加えて、当グループの独自の質問項目約20問を入れています。その項目の一つに『直近6カ月以内に職場で行われた健康の取り組みに参加したことがありますか。』というものがあるのですが、分析をしてみると、参加していない群に比べて、参加した群の方が、ストレス度、ワーク・エンゲイジメントともに良好な結果であることがわかりました。このように、ストレスチェックの結果の応用にも積極的に取り組んでいます。」

職場がメンタルヘルス対策に主体的に取り組むことができるよう、様々なツールの提供や仕組みの構築、社内研修のあり方など、工夫を凝らしている

最後に、その他のメンタルヘルス対策全般についてお話を伺った。

小口さん
「日頃から産業医が各部門長と対話をしており、状況に応じて、産業医による部門の全員面談を行っています。例えば、小売事業とフィンテック事業をシステム面で支えているグループ会社では高ストレス者の割合が高い傾向があったため、産業医が部門全員の面談を行いました。」

日比野さん
「一人ひとりの健康状態の確認のため、3か月かけて300人と面談を行いました。メンタルヘルス不調のリスクの高い人の早期発見を意識しながら対応することで、全員面談後は、不調を感じている方が早めに相談してくれるようになるなど、効果が見え始めています。新たに異動してきた方に対しても継続して面談を実施しており、さらに職場環境改善の活動も進行中です。」

関口さん
「システムに関わる業務は、稼働していることが当たり前で、トラブルがあると神経を使いながら対応しなければならないという環境で、ストレスを感じやすい職場だと思います。加えて、当グループでは“職種変更”という、一種転職のような異動を経験することで成長する、という人事制度が奨励されていることもあり、例えばこれまで小売事業に携わっていた人が異動によって急にシステムを担当することになった時のギャップが大きく、ストレスを感じやすいということもあると思います。産業医による全員面談実施のおかげで社内でも課題意識が広がり、産業医とのコミュニケーションもとりやすくなったと感じています。」

小口さん
「また、ストレスチェックと合わせて少人数単位の組織の分析も可能な、独自の“組織健康度調査”を導入しています。これはエンゲイジメントに関する12項目の設問からなり、3か月に1回など職場単位で任意の時期に調査することで、自律的な職場環境改善に役立てています。アクションの効果をすぐに確認することができるといった気軽さもあるため、現在では100以上の部門が活用しています。(【図2】参照)。職場環境を良くするための対話の材料として活用頂いています。」

関口さん
「もともとは、経営トップ層を対象にした“レジリエンスプログラム”という取り組みの中で組織健康度調査を紹介してきました(【写真1】参照)。レジリエンスプログラムは2021年8月時点で、役員、店長、部長職の約9割が受講済みで、レジリエンスプログラムの中で学んだことを、自部門で実践する、ということが広がってきているように思います。」


【図2】「組織健康度調査」の結果レーダーチャート(例)


【写真1】レジリエンスプログラムの様子

小口さん
「その他にも、メンタルヘルス不調者の発生を予防する目的で、外部相談機関を活用した相談窓口“HANASOU”を設けています。当初は“こころとからだのサポートダイヤル”という名称だったのですが、アンケート調査からこの名前だとどうしても病気の相談のイメージが強く、利用することへのハードルが高い、ということが見えてきたため、社員からの公募を経て“HANASOU”に変更しました。名称を変更した後は利用件数が1.7倍に増えており、日頃から利用しやすい環境を整えることにつながっていると感じています。」

「また、全社員を対象にセルフケア研修を実施しています。これは産業医が管理職に対して研修を行い、受講した管理職が自部門のメンバーに対して研修を実施する、という構造になっています。健康の専門家が話すのではなく、直属の上司が話すことで、上司の意識も高まりますし、メンタルヘルスの取り組みが社員にとってより身近なものになっているように感じています。」

「またウェルビーイングの活動を通して、社内だけなく、社会全体を豊かにしていくことをめざしています。その活動の一つが2016年から実施している“Well-being推進プロジェクト”という取り組みです。これは自ら手を挙げて主体的に参加したメンバーで構成されている、一期一年間の全社横断公認プロジェクト活動です。小論文を提出し、選考の結果選抜された社員は、社会がよりウェルビーイングになるための活動を自発的にアクションしていきます。(【図3】参照)」


【図3】丸井グループで推進するウェルビーイング活動

【ポイント】

  • ①“マイナスをゼロにする”(病気の人を病気でない状態にするなど)だけでなく、“プラスをつくる”(病気ではない方がさらにイキイキできるようにするなど)ことにも力を入れ、健康保険組合と連携しながら取り組みを進めている。
  • ②“攻めのストレスチェック”と位置付け、ストレスチェックの結果を積極的に活用するため、毎年取り組み内容を見直し改善を続けている。
  • ③職場がメンタルヘルス対策に主体的に取り組むことができるよう、様々なツールの提供や仕組みの構築、社内研修のあり方など、工夫を凝らしている。

【取材協力】株式会社丸井グループ
(2022年3月掲載)